SCENE 
  シーン設計工房・一級建築士事務所  
    ●集合住宅建設のためのアドバイス
     
    雑誌に掲載した文章(その1)です。長文ですが参考になればとUPいたします。  
   
10.ユーザーが賃貸住宅に求めるもの
   今、はやりのデザイナーズマンションとは

賃貸住宅のさがし方も時代と共にずいぶん変わってきています。
昔は部屋をさがすといえば駅前の不動産やさんの窓に張られた張り紙の中からさがしてたものですが、賃貸情報誌が発刊されるようになると、本屋さんで購入した本のなかから選ぶようになりました。そして最近はインターネットで部屋さがしをする人たちがどんどん増えています。
こうして部屋さがしの方法も変わってきましたが、賃貸住宅に対する考え方もずいぶん変化してきているようです。賃貸住宅というよりも住宅に対する考え方が大きく変化してきています。


住宅を手に入れることは人生の目標でもあり、その夢を実現するために長いロ-ンを組み住宅を買ってきました。「庭付き一戸建の住宅」に住むことがサラリーマンの夢であり、人生の『すごろく』の上がりでした。しかしバブルが崩壊し、土地神話が崩壊し始めた昨今、所有することばかりが最良ではなく、定期借地権の住宅や賃貸住宅を選択する人々が少しづつ出てきました。

低金利と税制優遇で昨年のマンションの売れ行きは過去最高のものとなり、持ち家志向はまだまだ強いですが、統計では賃貸志向の人たちは確実に増えています。それにともないユーザーが賃貸住宅に求めるものも変化しています。
特に賃貸市場の多くをしめる若い人たちの考え方・ライフスタイルは明らかに大きく変化し、その動向を知ることは賃貸住宅を建てる上で大きな手がかりになると思います。

・ 結婚年齢は年々遅くなってきています。
・ 女性の社会進出も増えています。
・ 結婚しても仕事を続ける女性が増えています。
・ 子供は少子化の傾向にあります。
・ 結婚しても子供をもたないカップルがいます。(ディンクス)
・ 年功序列型から能力主義への変化で所得は二極化してきています。
・ 結婚をしなくても一緒に住むカップルが増えています。
・ 結婚をしない人たちがいます。
・ 離婚の増加で再び一人暮しをする単身者がいます。

こういった動向を見てみると、生活に余裕のある単身者、共稼ぎで余裕のあるカップル、そして結婚してもいままでのライフスタイルを守り生活を楽しむ家族、そういった姿が浮かんできます。多くの若い人たちがこういった生活をしているわけではありません。しかし確実にこういった人たちがいます。

余暇時間の増加と共に日常生活を楽しんでいます。所有することにこだわらず、ライフスタイルの変化と共に、まるで洋服を着替えるように住まいも住み替えていく、常に好きなところに住みたいと思っています。

また首都圏の一人っ子同士の結婚ではそれぞれの親が持ち家をもっていることが多く、どちらかの親といずれは2世帯住宅と考えます。それまではおしゃれなマンションを借り賃貸住宅で過ごします。
彼らは自分自身の気に入ったものにはお金をかけています。しかし気に入った住まいを探そうとした時、現在の賃貸住宅市場は彼らの需要に追いついていません。

いままでのマンションは不特定多数をターゲットとし、あらゆる人が住める無難な間取りです。「どうせ一時の仮住まい」を想定し、何LDKといった間取りの何の変哲もない造りをしています。到底彼らの需要に答えられるものではありません。

その中で唯一彼らの需要に答えているのは、最近注目を浴び始めたデザイナーズマンションといわれているものです。デザイナーズマンションの多くが空室待ちのお客さんを持っているのはそういった理由でしょう。それらの造り方は明確に入居者像を設定し、ターゲットとした人たちの望むライフスタイルにあった造り方をしています。こんな生活をして、こんな余暇を楽しみ、こんなことを大切にしている人、というように入居者の人物像を明確に思いうかべ、その人の需要に答える造り方のマンションです。

誰もが住める不特定多数をターゲットとしたマンションは、結局はだれにとっても住み心地の良い住宅とはなりえないのではないでしょうか。
ライフスタイルが多様化した現在、誰でもが住めるマンションではなく、ターゲットとした人たちがとことん満足するマンションを造っていく。デザイナーズマンションとはそんな造り方をしています。
 
 
   
 
    雑誌に掲載した文章(その2)です。長文ですが参考になればとUPいたします。  
 
11.賃貸住宅の将来像

毎朝新聞を開いてみると環境問題がとりあげられていない日はありません。環境に配慮していない企業は21世紀には生き残れない時代になり、環境問題ぬきではものが造れない時代になってきました。これは建築においてもしかりです。

産業廃棄物といいますと製造業などの廃棄物と思われがちですが、なんとその45%が建設系廃棄物だということをご存知でしょうか。また1件の住宅を建て替える時に出される廃棄物の量は、普通の家庭から出されるゴミの35年分に相当するということを知ると、日頃こつこつと環境問題に気をつけている奥様たちはゾッとするのではないでしょうか。
建築物をつくるということは、建替えの場合でも新築でも、現在の自然環境を変えるという点で環境に影響を与えていますが、このように廃棄物のことでも大きく環境問題とかかわっています。

もうひとつの数字も日本の住宅の将来像にヒントを与えてくれます。
日本の住宅の寿命はどれくらいかご存知でしょうか。日本の住宅の平均寿命は世界的にみて驚くほど短いのです。海外と比較するとたとえばアメリカが44年、イギリスでは75年、これに比べ日本は26年でスクラップにされています。歴史的に多くの石造りの建築を持つヨーロッパの事情を差し引いても、やはり日本の住宅の寿命はたいへん短いです。
消費することが美徳とされていた高度成長時代を経てきた日本は、住宅でさえ消費の対象になってしまったのです。その上賃貸住宅は相続税対策の名目で、住むことを目的ではなく借金をすることを目的にスクラップアンドビルドをしてきました。

以上ふたつの現実を考えた時、これからの時代はスクラップアンドビルドを繰り返すのではなく賃貸住宅、持ち家の住宅にかかわらずストック住宅として息の長い建築をつくっていくことが大切だと思います。
賃貸住宅の将来像として安普請の仮住まいを供給するのではなく、息の長い良質の住宅を供給していきたいと思っています。
しかし現実の問題として、長く住むことのできる家族向けの良質の賃貸住宅を供給しようとすると、どうしても家賃が高くなってしまいます。
これではオーナーさんのリスクも高いですし、借りることのできる入居者も限られた層の人たちになってしまいます。都心の良い立地ですと、家族向け高級賃貸住宅というのも一つの方法ですが、そのような立地条件の地域はほんのひとにぎりで、多くの場合にはあてはまりません。理想としては一般的なサラリーマンでも充分借りることができ、将来の不安もなく住むことができる良質の賃貸住宅を供給することです。
そのような賃貸住宅を供給できれば、所有にこだわらない人たちの需要に答えることができます。

では、こんな理想のような話に答える方法はあるのでしょうか。
その答えの一つとしてスケルトン賃貸と呼ばれている造り方があります。これは定期借地権などを使い、構造体と設備の動脈(排水管、水道管、電気の各住戸の取り出し口まで)はオーナーさんが造り、内装や住戸内の設備は入居者が自分の負担で造っていく方法です。

賃貸者は構造体にかこまれた空間をオーナーさんから借り、内部は自由に使います。
ちょっとわかりにくいので具体的に説明しますと、たとえば100㎡の土地にワンフロアー80㎡の5階建てのコンクリートの箱を造ったとします。100㎡の土地を一人の人に貸すのではなく、電気・ガス・排水管が引込み済の80㎡×5層の土地を5人の人に貸すと考えればわかりやすいです。各々の借地人は80㎡に区切られた箱を、たとえば35年間借ります。借りた箱のなかは35年間自由に使え、分譲マンションを購入するよりは安く、なおかつ自分の好きなような間取りの自由な内装で住むことができます。オーナーさんは35年間の賃貸収入が約束されます。

いろいろ法規的なことや税制上の話も出てきますのでこの紙面では説明しきれませんが、こんな方法をとれば理想論ではなく新しい賃貸住宅の方向が見えてきます。

このようなスケルトン賃貸のようなシステムを利用していく方法や、前回のターゲットを絞って造っていく方法など、どれも一つの選択肢ですがそれらに不動産の証券化などをからめていけばさらにいろいろな方向が見えてきます。
どの方法を選択しマンションを建設していくかはいろいろですが、息の長い良質の賃貸住宅を造っていく事が、今の時代の課題なのではないでしょうか。
 
 
     
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